淀井敏夫は二科展の重鎮で、昭和の具象彫刻界の大家のひとり。彼にはマントヒヒ、キリン、ロバといった動物をモチーフにした作品が多い。それらはまるでジャコメッティ彫刻のような繊細な構成によって、生き物の命のはかなさを感じさせる。この「渚」は、海辺の椅子でくつろぐ若い女性の姿を表わしたものであるが、この作家ならではの叙情漂う作品である。
1911年、兵庫県朝来郡生まれ。大阪市立工芸学校で家具作りを学んだ後、東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻科を卒業。昭和30年代より淀井彫刻の主要技法である“石膏直付け法”による作品制作を開始。以後、ユニークな作品を次々と発表し、高い評価を得ている。1985年と87年には大規模な回顧展も開かれた。